経営危機を招かない社長経営の数字だけでは見えない落とし穴

新規開拓を成功させる社長の“5ステップ思考整理術”で、優先順位の話をしました。

社長は「長期的な売上・利益拡大に関する取り組み」を最優先しなければいけません。
そうしなければ、ある時、経営的な苦境に立たされ、社員を路頭に迷わすことになりかねないからです。

窮地は「突然」訪れます。

売上の大半を依存していた取引先との取引がなくなったり、取引が激減したり…
事が起こってから急に慌てることになります。

しかし、本当は突然起きた出来事ではなく、その兆候を十分察知することはできたのです。
では、なぜ、会社の経営を揺るがすほどの兆候を見逃してしまったのでしょうか。

それは、足元の売上しか見ていないからです。

多くの企業では、前年の売上に対して、何%かの積み増しをした事業計画を立てます。
そして、その売上目標を達成するために、営業をがんばるように指示します。
未達の場合は、さらに、数字を作るように促します。

そして、売上が下降に転じると、今度は、利益を確保するために、コストを削減します。
しかし、ここでも、たいていの企業は、効果が高い大きな費用の見直しをすることをしません。手の付けやすい社員の残業代や細かい物件費を切り詰める対処療法で、社員のモチベーションを下げる施策をとります。毎年、その繰り返しです。

経営危機を招く社長の共通点とは?

経営の数字を管理するのは、社長として当然のことです。必要な取り組みでもあります。
しかし、常に意識していなくてはならない、もう一つの重要なことがあります。

それは、商品・サービスの「寿命」を意識することです。

商品・サービスの寿命

商品・サービスには上の図のように「寿命」があります。

商品・サービスが未来永劫売れ続けるわけではないということは、多くの社長が「知識」として知っているところです。しかし、「知識」として知りながらも、経営という実践の場で、その知識を活かされている社長はきわめて稀です。

本来であれば、利益が減ってくる「成長後期」に、既存事業の予算を振り分けて、新しい商品・サービスの準備を進めなくてはなりません。
「成長後期」というのがポイントです。なぜならば、この時期であれば、新しい事業や市場を開拓するための投資余力が十分にあるからです。

しかし、実に多くの企業が逆の行動をとるのです。

新しい商品・サービスへのチャレンジをコストと捉え、既に「寿命」を終えている商品・サービスの、過去の売上に固執し続けます。
それどころか、「選択と集中」という大義名分のもと、「寿命」を終えた商品・サービスに社員の稼働や経費を集中させてしまいます。

実際に、私が出会ってきた社長や幹部の方の多くがそうでした。
そして、取引相手の経営事情や人事が変わった途端に、経営難を招いてしまうのです。

売上減少の原因が、商品・サービスの寿命にある場合、営業にいくらはっぱをかけ、がんばるように指示しても、徒労に終わります。
営業をがんばっても、がんばっても、売上は下降の一途をたどることになります。

なぜなら、もはや、市場からの需要がないのですから。

商品・サービスの「寿命」を克服する4つの質問

「そうはいっても、新しい商品・サービスなんて、どう見つけてよいかわからない」とあなたはお考えになるかもしれません。

そのための有効な方法については、本ブログ『デキル社長だけが知っている「BtoB成功の法則」』で具体的に掲載していきますが、ここでは、「企業基点」の考え方から「顧客基点」の考え方へ視点を切り替える重要性についてお話します。

多くの企業は、

  • 売上を増やすにはどうしたらいいか
  • どんな商品・サービスを提供するのか
  • 誰にどうやって売るのか

という企業基点、すなわち自社都合ですべてを考えます。

しかし、成功する社長は違います。

1.お客様は何を求めているのか?

2.お客様のために自社は何を提供できるのか?

3.それは、お客様が求めているものを手に入れるために効果的か?

4.今よりもっとよい方法はあるか?

と顧客基点で思考しているのです。

社長は、この4つの質問を常に社員と共有しておくことが肝要です。

これは本当に重要なことです。

その重要性をお伝えするために、少し横道にそれますが、あなたに質問をします。

まず10秒間、あなたの周りを見渡してください。
そして目を閉じて次の質問に答えてください。
赤い色のものは何個ありましたか?

イメージできましたか?

そして目を開けて見てください。
どうでしょうか?

目を開けた途端に赤いものばかり目につきませんか?

このように、意識していないことは、実際に存在していても、脳が知覚しません。
しかし、意識をするだけで、必要な情報をどんどん引き寄せることができるのです。

さて、話題を「顧客基点」に戻します。

答えは常に「お客様」の中にあります。

4つの質問を意識してお客様に接していると、お客様が何気なく話されたことから、実に様々なヒントをキャッチアップすることができます。

特に、新規開拓のお客様の声に耳を傾けていると、既存のお客様の中では話題にならない新規性のある話や、業界を取り巻く環境や新たな危機に関する話を聞くことができます。
新規開拓の取り組みは、当事者であるお客様ご本人から、お客様の事業や会社の経営、それに起因している業界、市場に関する情報を、直接聞ける貴重な機会でもあるのです。

残念ながら、4つの質問を意識していない企業では、お客様が発信するヒントを正確に捉えることができず、営業は弱体化していきます。

これからは、営業会議で、この4つの視点について、社員と徹底的に議論するようにしてください。毎週営業会議に費やす少なくない時間を、単なる進捗報告のルーティンに終始することなく有効にお役立てください。そして、ぜひ、あなたの会社の顧客企業に対する分析力、市場動向の把握力の向上に役立ててください。

顧客企業や市場の分析というと、大がかりな市場調査やアンケート調査をイメージされるかもしれません。しかし、残念ながら、時間と労力とお金をかけて、お客様を「標準化」するような調査をしても、売上を上げる効果はありません。

答えは目の前のお客様の中にあるのです。お客様に本当に聞くべき質問とそこから読み取る情報について、『競合と差別化し価格競争にならないための3ステップ・アプロ―チ <第二回> ステップ1「お客様の声」を自社の「強み」にかえる』でご紹介しています。こちらも合わせて、ご一読ください。

足元の経営数字も大切ですが、本質を得た日常業務の習慣こそが、突然の経営危機を招かないための事前策です。
弊社のコンサルティングでは、今よりももっとよい方法を考えるための「60個のアイデア発想法」をご提案しています。

まとめ

  1. 経営の数字だけを追うのではなく、商品・サービスの「寿命」を常に意識しなければならない
  2. まだ投資余力が残っているときに、新しい商品・サービスの開発に着手することは、社長の最優先事項
  3. 新しい商品・サービスのヒントは、新規開拓の見込客の中に存在する
  4. ヒントを見逃さないためには、お客様視点に立って物事を考える習慣を身につけることが肝要
  5. お客様視点に立った4つの質問を社員と共有し、日々議論を繰り返すことが、突然の経営危機を招かない事前策となる